帯状疱疹
帯状疱疹とは、水痘・帯状疱疹ウイルス(VZV)が体内で再活性化し、皮膚に水ぶくれ、痛みやかゆみを引き起こす病気です。日本人成人は約90%の人が体内にVZVをもっており、80歳までに約3人に1人が発症すると言われています。
加齢や免疫力の低下、ストレスなどが要因となり発症します。女性に多く60歳台を中心に50-70歳代に多くみられます。
水ぼうそうにかかったことがある方はだれでも帯状疱疹になる可能性があります。
帯状疱疹はどのような症状がでますか?
❶ 赤い斑点のあらわれる数日~1週間ほど前から、皮膚の違和感やピリピリ感、灼熱感などの神経痛を伴うことがあります。
❷強い痛みを伴い、身体の片側の神経に沿って帯状にやや盛り上がった赤い斑点があらわれます。
❸赤い斑点上に水ぶくれがあらわれます。
❹水ぶくれは破れてただれた状態となり、かさぶたができます。
❺ 帯状疱疹に伴う痛みはかなり強く、人によっては数週間、あるいは数ヶ月続くこともあります。
帯状疱疹というと痛いイメージですが、かゆみ症状も帯状疱疹の約7割に見られると言われています。の患者にみられます
帯状疱疹はどのように診断しますか?
帯状疱疹は問診と特徴的な皮疹の分布やパターンから診断ができることが多いです。
単純ヘルペス、毛虫皮膚炎、かぶれや汗疱など他の皮膚疾患と区別が困難である場合には検査キットにより診断を行います。
当院ではデルマクイックVZVにより感度93.2%と高い精度で検出が可能です。
帯状疱疹はどのように治療しますか?
早めに皮膚科を受診し、早期の診断と抗ウイルス薬による治療を受けましょう
帯状疱疹は水痘・帯状疱疹ウイルスの再活性化によって発症するため、抗ヘルペスウイルス薬によりウイルスの増殖を抑えることで治療を行います。
抗ウイルス薬の投与により帯状疱疹後神経痛を残さない、新たな発疹の出現を抑える、皮膚病変の治癒を促進するといった効果があります。
発疹が出始めてから72時間以内に抗ウイルス療法を開始し、7日間治療を行うことが原則です。
飲み薬は効果が現れるまでに2日程度かかります。服用後すぐに効果が現れないからといって薬をやめたりせず決められた方法で服用をしてください。
《帯状疱疹で使用される内服薬》
❶バラシクロビル(バルトレックス)
❷ファムシクロビル(ファムビル)
❸アメナミビル(アメナリーフ)
抗ウイルス薬の有効性が高い3日以内に皮膚科外来を受診されたのは、半数に満たないという報告もあります。
帯状疱疹の合併症は?
基礎疾患があるかた、顔に街上方針ができたかたは注意が必要です。
❶ ヘルペス脳炎・髄膜炎
- 発症頻度は帯状疱疹患者の0.2-0.5%と非常にまれです。
- 顔付近の帯状疱疹や基礎疾患がある例で比較的多く、皮疹が出現してから1-2週間以内に発熱、頭痛、麻痺、意識障害などの症状が特徴です。
- 脊髄に炎症を引き起こし、足の感覚異常や排尿障害を引き起こすこともあります。
❷ 眼球ヘルペス
- 帯状疱疹が三叉神経に生じると眼球の合併症が起こることがあります。角膜炎、結膜炎やブドウ膜炎などの頻度が高く眼球の動きの麻痺が認められることもあります。激しい目のかゆみ、視力低下、充血、二重に見えるなどの症状が出現します。
- 額の帯状疱疹で、眼球ヘルペスが疑われる場合は眼科を御紹介させていただきます。
❸ ラムゼイハント症候群
- ラムゼイハント症候群は片耳の周りに帯状疱疹と顔面神経麻痺を含む症状を併発するものです。耳の痛みや発疹、顔がうまく動かせない、舌や口腔内の水疱、びらんなどが特徴です。
- ラムゼイハント症候群を疑うような症状があれば、耳鼻科を御紹介させていただきます。
❹ 運動神経麻痺
- 発症頻度は帯状疱疹患者の0.5-5%とまれです。皮疹が出てから3日から2週間程度で発症します。腹部の膨隆、手足の麻痺、排尿障害などの症状が出現します。
❺ 脳血管障害
- 帯状疱疹後には脳卒中や冠動脈疾患(心筋梗塞や狭心症)の発症リスクが上がることが報告されています。
❻ 汎発性帯状疱疹
- HIV/AIDS患者、化学療法中のかた、臓器移植を受けた人、高齢者などの免疫力が低下しているかたが血液を通じて全身にウイルスがばらまかれることで発症します。
- 入院治療が必要となるため高度医療機関を御紹介させていただきます。
帯状疱疹関連痛(ZAP)と帯状疱疹後神経痛(PHN)について
帯状疱疹を発症したことに伴う痛みのことを帯状疱疹関連痛と呼びます。発症直後には皮疹が消失1-2ヶ月まではピリピリ、チクチクとした急性期疼痛といいます。
約20%のかたが軽い刺激でも誘発される”しびれるような”、”焼けつくような”、”電気が刺されるような”痛みである帯状疱疹後神経疼痛(PHN)に移行します。
帯状疱疹関連痛は生活の質が大きく低下するため、発症時から病状を見極めて、痛みを和らげる治療を抗ウイルス薬と並行して行います。
急性期痛に対する治療
❶ NSAIDs・アセトアミノフェン
ロキソニンなどのNSAIDsやカロナールを使用します。
アセトアミノフェン(カロナール)は1回1000mgまで、1日4000mgまでと風邪などで使用するより多く使用することでしっかりと痛みを和らげます。
腎機能障害がるかたや高齢者では腎機能や消化性潰瘍のリスクが高まるためアセトアミノフェンを使用します。
アセトアミノフェンやNSAIDsで鎮痛が不十分な場合はトラマドールを併用したり、神経ブロックのためペインクリニックをご紹介します。
帯状疱疹後神経痛に対する治療
罹患部に衣服が触れる程度で痛みを感じるなど、通常では痛みを引き起こさない刺激によって発生する痛み(アロディニア)が見られるような場合では、神経障害性疼痛が疑われます。
❶ プレガバリン(リリカ)・ミロガバリン(タリージェ)
帯状疱疹後神経痛治療の基本薬です。
❷ デュロキセチン(サインバルタ)
❸ トリプタノール(アミトリプチリン)
❹ ワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚抽出液(ノイロトロピン錠)
軽い痛みの方、長期に症状が続く方が良い対応です。
❺ トラマドール
プレガバリンやミロガバリン、サインバルタなどの抗うつ薬で十分な効果が得られなかった場合にはトラマドールを第二選択として使用します。
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リリカ |
タリージェ |
トリプタノール |
サインバルタ |
トラムセット |
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皮膚の痛み |
有効 |
有効 |
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有効 |
特に有効 |
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神経の痛み |
特に有効 |
特に有効 |
特に有効 |
特に有効 |
有効 |
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代表的な副作用 |
眠気 |
眠気 |
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吐き気 |
吐き気 |
帯状疱疹の予防
帯状疱疹予防のワクチンは2種類あります
帯状疱疹とその合併症である帯状疱疹後神経痛を予防するためにはワクチン接種が有効です。
帯状疱疹ワクチンには、生ワクチンとサブユニットワクチンの2種類があります。サブユニットワクチンは2回の接種を必要とし、生ワクチンと比べて高額ではありますが、97%と高い発症予防効果と10年近く効果が持続するのが特徴です。生ワクチンが接種できない免疫不全のある方や生ワクチンの効果がでにくい70歳以上の方にはサブユニットワクチンを接種します。
50-60歳代の持病のない方は生ワクチンも良い選択肢です。
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乾燥弱毒生ワクチン |
サブユニットワクチン |
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目的 |
水痘および50歳以上の者に |
帯状疱疹の予防 |
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対象 |
50歳以上 in |
50歳以上 |
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接種 |
免疫力が低下する疾患に罹患されているかた |
制限はありません |
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接種回数 |
1回 |
2回(2ヶ月後に2回目) |
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帯状疱疹 |
50~59歳:69.8% |
50歳以上:97.2% |
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帯状疱疹後 |
66% |
85~100% |
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持続期間 |
5年程度 |
9年以上 |
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価格 |
円 |
44,000円(1回22,000円×2回接種) |
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長所 |
1回で済む |
予防効果が高い |
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短所 |
持続期間が短い |
値段が高い |
よくある質問
帯状疱疹のは何日で治りますか?
治療すると1週間程度で、治療しなかった場合は2〜3週間で黒褐色のかさぶたとなります。 4〜6週間でかさぶたが取れ治ってきます。 乾いてかさぶたとなれば感染力は次第になくなってきます。 通常痛みは皮膚の症状とともに1ヶ月以内に消えていきますが、2割程度の方は帯状疱疹後神経痛として痛みが残る事があります。
帯状疱疹は他人に感染しますか?
帯状疱疹は、他の人に帯状疱疹としてうつることはありません。
帯状疱疹の患者さんから、水ぼうそうにかかったことのない乳幼児などに対して水ぼうそうとしてうつる場合があります。
水痘と帯状疱疹の違いは?
帯状疱疹と水ぼうそうは同じ水痘・帯状疱疹ウイルスにより発症します。
初回の感染では水ぼうそうとして発症し、帯状疱疹は一度水ぼうそうにかかったことがある方がウイルスの再活性を起こすことで発症します。以下の表の通り症状や年齢などの特徴が異なります。
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帯状疱疹 |
水痘(水ぼうそう) |
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発症機序 |
水痘にかかったことある方に水痘・帯状疱疹が再活性することで発症 |
水痘・帯状疱疹ウイルスによる初回感染で主に小児に発症します |
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症状 |
痛みを伴う赤い発疹や水ぶくれが、体の片側に出現 |
頭皮や耳介なども含めて全身に小さな水ぶくれや赤い発疹が広範囲に広がる |
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痛み |
より激しい痛みを伴う |
通常痛みは伴わない |
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感染力 |
接触感染 |
感染力が強く、空気感染 |
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ワクチン |
50歳以上の成人に推奨 |
定期的予防接種として |
帯状疱疹と単純ヘルペスの違いは?
単純ヘルペスと帯状疱疹は同じヘルペスウイルスによって引き起こされますが別のウイルスです。
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単純ヘルペス |
帯状疱疹 |
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原因ウイルス |
単純ヘルペスウイルス(HSV) |
水痘・帯状疱疹ウイルス(VZV) |
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感染様式 |
接触感染 |
空気感染 |
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痛み |
軽い灼熱感 |
強い、慢性疼痛となることがある |
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再発頻度 |
同じ部位に繰り返し出現 |
1回のことが多く、皮膚分節にそって出現 |
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誘発される誘因 |
紫外線、疲労など |
加齢、免疫抑制状態など |
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皮疹の特徴 |
均一で小さな水疱 |
大小さまざまな新しい、皮疹が混在している |
帯状疱疹は再発しますか?
帯状疱疹患者の6.4%に再発があり、再発までの期間はおよそ5年程度と報告されています。
50歳以上、免疫不全状態のかた、帯状疱疹関連痛が長期(90日以上)などが再発のリスクであると言われています。
妊娠中の帯状疱疹治療は?
水痘の感染は妊娠初期には流産、中期以降には先天性水痘症候群の危険性があります。
妊娠中に帯状疱疹を発症した事例を集めた研究では1.1%に流産、0.4%でVZVウイルスと関連しない奇形が認められたとの報告があります。
アシクロビルやバラシクロビルは有益性が上回る場合に妊娠中にも使用可能であり、比較的安全に服用する事ができます。
授乳中の帯状疱疹の治療は?
バラシクロビル(バルトレックス)は授乳中にも安全に使用ができると考えられています。
帯状疱疹になりましたが、いつワクチンを打てば良いでしょうか?
帯状疱疹にかかったことがある方にも帯状疱疹ワクチンは安全に接種できることがわかっています。帯状疱疹が再発するかたは6.4%で再発までおよそ5年程度といわれていますが。米国CDCでは急性期の接種は避けるべきとされていますが、タイミングを逃さないように早めの接種をおすすめしています。

