動物咬傷(犬や猫に噛まれたら)
噛まれた直後にすること、病院に行く目安
この状態なら、様子を見ずにすぐ受診してください
動物咬傷(どうぶつこうしょう)でこわいのは、傷そのものより、あとから起こる感染です。次にあてはまるときは、傷が小さく見えても、その日のうちに医療機関を受診してください。夜間や休診日に重なった場合は、救急外来を受診してください。
とくに、発熱・悪寒・ぐったりする・意識がはっきりしないといった全身の症状が出ているときは、受診ではなく救急要請(119番)です。犬や猫の口の中にいるカプノサイトファーガという菌による感染は、急速に重くなることがあります。
犬に噛まれた時の処置 — 直後にすることは、この順番だけです
犬に噛まれた時の処置、猫に噛まれた時の処置として、まず何をすればよいか。動物に噛まれたとき、その場でいちばん効果があるのは洗浄です。傷の中に押し込まれた細菌を、水の量と時間で物理的に洗い流します。消毒液を塗ることではありません。消毒は洗浄の代わりにはなりません。
犬に噛まれた時の対処法、猫に噛まれた時の対処法として、迷われたときも順番は同じです。手当てをする側の手も、可能なら先に洗ってください。水道が使えるところまで移動する数分は、惜しまなくて構いません。
洗い終わったら、清潔なガーゼやハンカチで軽く覆い、受診してください。噛まれたのが手足なら、心臓より高く上げておくと腫れが軽くなります。
やってはいけないこと
よかれと思ってやったことが、かえって感染を招くことがあります。特に多いのが、洗わずに消毒だけして終わりにすること、そして傷を密閉してしまうことです。
咬み傷の中は酸素の少ない環境で、嫌気性菌という酸素を嫌う菌が増えやすい場所です。ハイドロコロイドのばんそうこう(いわゆる湿潤療法のパッド、キズパワーパッドなど)は、擦り傷ややけどには向きますが、動物に噛まれた傷や刺し傷には使いません。密閉すると菌にとって好都合な環境になるためです。
「小さい穴だから」「血もあまり出ていないから」と様子を見るのも、猫の咬み傷ではおすすめできません。猫咬傷でいちばん多いのは、まさにその「小さい穴」からの感染です。
何科を受診しますか。いつまでに行けばよいですか
犬や猫に噛まれた傷は、皮膚科・外科・形成外科が窓口です。感染や発熱が中心のときは内科でも診ます。当院は内科・皮膚科・アレルギー科を併設しているため、傷の処置と、抗菌薬・破傷風の判断をひとつの診察の中で行えます。東京都江東区豊洲、豊洲駅から徒歩3分。土日も診療しています。
犬に噛まれたら何科へ、猫に噛まれたら何科に行けばよいのか。迷われたら皮膚科で構いません。傷の処置と抗菌薬、破傷風の判断まで、皮膚科の外来で完結することがほとんどです。
受診の時間についてよくご質問をいただきます。目安は「できるだけ早く、遅くとも噛まれてから8時間以内」です。傷の中の細菌は時間とともに増えるため、洗浄と抗菌薬の効果は早いほど高くなります。8時間を過ぎたから手遅れということではありませんので、翌日になってしまった場合も受診してください。
手や指の腱・関節に達している疑いがあるとき、傷が大きく深いとき、全身状態が悪いときは、当院での初期対応のうえで、手の外科や外科のある病院にご紹介します。
| 噛まれ方 | どうするか |
|---|---|
| 猫に噛まれた(皮膚に穴が開いた) | 腫れていなくても受診してください。腫れが出てからでは治療が長くなります |
| 犬に噛まれて皮膚が破れた | 洗ってから受診してください。手・顔・深い傷は当日中に |
| 犬に噛まれたが皮膚は破れていない(歯形の赤みや内出血だけ) | 洗って様子をみて構いません。赤み・腫れ・痛みが出てきたら受診 |
| 猫や犬に引っかかれた(ひっかかれた) | よく洗ってください。深い傷、手指の傷、あとからリンパ節が腫れてきたときは受診 |
| なめられただけ(傷はない) | 受診は不要です。ただし傷や目・口の粘膜をなめられた場合はご相談ください |
| 海外で噛まれた・引っかかれた | 現地でただちに洗浄し、その場で医療機関を受診してください。狂犬病の対応が必要です |
飼い犬に噛まれた、飼い猫に噛まれた、愛犬に噛まれた、という場合でも、野良猫や野良犬に噛まれた場合でも、傷への対応は変わりません。ワクチンを打っている犬猫でも同じです。狂犬病の予防注射は狂犬病を防ぐもので、口の中の細菌による感染とは関係がないためです。
猫に噛まれたら(猫咬傷)— いちばん軽く見られ、いちばん感染します
猫(ネコ・ねこ)の咬傷は動物咬傷全体の5パーセントから10パーセントほどですが、感染を起こす割合は犬より高く、報告によっておよそ6割から8割とされています。理由は歯の形です。猫の歯は細く鋭いため、傷は針で刺したような小さな穴になります。表面はすぐ閉じるのに、菌は深いところに置き去りにされます。閉じ込められた菌が増え、膿をつくります。
原因菌として代表的なのがパスツレラ・ムルトシダです。この菌は猫の口の中にほぼ100パーセント、犬の口の中に約75パーセント、猫の爪にも約25パーセント常在していると報告されています。特徴は進行の速さで、噛まれてから30分から2日という短時間で、傷のところに強い痛み、赤み、腫れが出てきます。虫刺されや打ち身の腫れとは進み方が違います。
「噛まれた直後は何ともなかったのに、夜になって急に腫れて痛くなった」というのは、猫咬傷ではとてもよくある経過です。飼い猫に噛まれた場合も、子猫に噛まれた場合も、野良猫に噛まれた場合も、猫に噛まれると腫れることがあるという点は変わりません。逆に、噛まれた直後に腫れていないことは安心の材料になりません。
犬に噛まれたら(犬咬傷)— まず確かめること
犬(イヌ・いぬ)による咬傷は、動物咬傷の85パーセントから90パーセントを占めます。犬の歯は太く、あごの力が強いため、傷は刺し傷というより、皮膚や皮下組織がつぶれて裂ける挫創・裂創になります。見た目が派手な分、猫よりは気づかれやすい傷です。
感染を起こす割合は猫咬傷より低く、20パーセント未満と報告されています。ただしこれは体や脚を噛まれた場合を含めた数字で、手を噛まれた場合の感染率はぐっと高くなり、腱や骨にまで感染が及ぶことがあります。手を噛まれたときは、犬でも軽く見ないでください。
飼い犬に噛まれた、子犬に噛まれた、愛犬に噛まれた、という場合でも同じです。赤ちゃんや小さな子どもが噛まれた場合は、傷の場所と大きさにかかわらず受診してください。犬に噛まれると腫れる、赤くなるという反応は、相手が家族の犬かどうかとは関係なく起こります。
噛まれる部位には年齢による傾向があります。小さなお子さんは背が低く犬の口の高さに顔があるため、顔・頭・首を噛まれることが多く、大人は手や腕を噛まれることが多いと報告されています。お子さんが顔を噛まれた場合は、傷あとのことも含めて当日中に受診してください。
手や指を噛まれたときは、傷の大きさで判断しない
このページでもっともお伝えしたいことのひとつです。手や指は、皮膚のすぐ下に腱・腱鞘・関節が並んでいます。皮膚に開いた穴が数ミリでも、その下の腱鞘や関節の中まで菌が入ると、化膿性腱鞘炎や化膿性関節炎、骨髄炎になります。ここまで進むと、抗菌薬だけでは治らず、手術で洗浄が必要になることがあります。
手を噛まれた猫咬傷の入院例を集めた報告では、およそ2割に腱鞘炎、1割台に骨髄炎または感染性関節炎の合併がみられたとされています。入院した重い例を集めた数字なので、噛まれた方の誰もがこうなるという意味ではありません。ただ、手の咬傷にはこうした行き先があるということです。
次のような症状は、腱鞘や関節に及んでいるサインです。あてはまるときは、その日のうちに受診してください。
腫れはいつまで続くか、何日で治るか — 猫に噛まれた傷は自然治癒しますか
経過は「感染しているかどうか」で大きく変わります。感染していない咬み傷であれば、腫れと痛みは数日でおさまり、1週間から2週間で傷が閉じていきます。
感染を起こした場合、パスツレラ症では噛まれた当日から翌日にかけて急速に腫れます。抗菌薬を始めると、多くは48時間から72時間で痛みと赤みが引き始めます。ここが治療がうまくいっているかどうかの分かれ目で、抗菌薬を飲み始めて3日たっても腫れが広がる、痛みが強くなる、熱が出るという場合は、菌が抗菌薬に合っていないか、膿がたまっている可能性があります。もう一度受診してください。
噛まれたところに水ぶくれができることがあります。強く挟まれて皮膚が傷んだだけのこともありますが、感染が深いところまで及んでいるときにも水ぶくれや皮膚の色の変化が出ます。犬に噛まれて水ぶくれ、猫に噛まれて水ぶくれ、というときは自分でつぶさず、その日のうちに受診してください。
「腫れが引かない」というご相談で多いのは、皮膚の下に膿のたまり(膿瘍)ができている場合と、手の腱鞘に及んでいる場合です。どちらも飲み薬だけでは治らず、たまった膿を出す処置が必要になります。
傷跡(傷あと)については、猫咬傷のような小さな穴の傷は、感染させずに治せば目立たなくなることがほとんどです。犬咬傷で皮膚がえぐれた傷は、あとが残ることがあります。噛み跡が硬いしこりとして数か月残ることもありますが、多くは瘢痕(傷跡の硬さ)で、時間とともにやわらかくなります。噛まれた跡のしこりが大きくなる、痛みが強くなるときはご相談ください。
犬や猫に噛まれて起こる感染症
動物の口の中には、人の口とは違う細菌がすんでいます。犬や猫の唾液からうつる病気として知られているものの多くは、こうした常在菌によるものです。猫カフェや保護施設でよその猫に噛まれた、引っかかれたという場合も、対応は飼い猫のときと同じです。咬傷の感染は多くの場合、複数の菌が混ざった混合感染で、パスツレラ属菌のほか、ブドウ球菌、連鎖球菌、嫌気性菌などが検出されます。
症状が出るまでの時間(潜伏期間)は病原体によって違うため、「いつ何が起きたか」は診断の手がかりになります。下の表は、噛まれてから症状が出るまでの潜伏期間の目安です。
| 感染症 | 主な相手 | 症状が出るまで | 主な症状 |
|---|---|---|---|
| パスツレラ症 | 猫・犬 | 30分から2日 | 傷のところの強い痛み、赤み、腫れ。もっとも多い咬傷感染です |
| カプノサイトファーガ感染症 | 犬・猫 | 1日から14日(多くは1日から5日) | 発熱、倦怠感、頭痛、腹痛、吐き気。まれに敗血症へ進み急速に重くなります |
| 猫ひっかき病(バルトネラ・ヘンセレ) | 猫(特に子猫) | 傷の丘疹は3日から14日、リンパ節の腫れは2週間から3週間 | わきの下や首、肘の内側のリンパ節が腫れて痛む、微熱、だるさ |
| 破傷風 | 土壌の破傷風菌(傷から) | 3日から3週間 | 口が開けにくい、首筋が張る、体がこわばる、けいれん |
| 狂犬病 | 海外の犬・猫・コウモリなど | 1か月から3か月(それ以上のことも) | 発熱、不安、水を怖がる。発症するとほぼ助かりません |
| 混合感染(ブドウ球菌・連鎖球菌・嫌気性菌など) | 犬・猫・人 | 1日から3日 | 赤み、腫れ、膿、蜂窩織炎、膿瘍 |
カプノサイトファーガ感染症は健康な方でも起こりますが、糖尿病、肝硬変、脾臓を摘出した方、大量に飲酒される方、免疫を抑える薬を使っている方では重くなりやすいと報告されています。噛まれたあとの発熱と強いだるさは、傷が軽く見えても救急要請の理由になります。
猫にひっかかれたとき(猫ひっかき病)
猫に引っかかれた(ひっかかれた)ときも、噛まれたときと同じようにまず洗ってください。ひっかき傷は浅いことが多く、多くはそのまま治りますが、特徴的な病気がひとつあります。猫ひっかき病です。
原因はバルトネラ・ヘンセレという細菌で、猫の血液の中にいて、ノミを介して猫から猫へ広がります。子猫やノミのついた猫が持っていることが多く、爪や口を通じて人にうつります。引っかかれたところに数日で小さなふくらみができ、その2週間から3週間後に、傷のある腕なら脇の下、顔や首なら首のリンパ節が腫れて痛みます。微熱やだるさを伴うこともあります。
リンパ節の腫れは数週間から数か月かけて自然に引くことが多く、健康な方では自然に治ることも少なくありません。ただし腫れが大きい、痛みが強い、熱が続く、免疫を抑える薬を使っているという場合は、抗菌薬による治療を行います。首やわきのしこりが続いているときは、ほかの原因と区別する必要もありますので、受診してください。
犬に噛まれたら破傷風になる確率は — どれくらい心配ですか
「犬に噛まれて破傷風になる確率」は、多くの方が気にされるところです。結論から言えば、日本国内で咬傷から破傷風を発症する方は年間でごくわずかで、確率としては非常に低いものです。国内の破傷風の報告は年間100例前後で、その多くは農作業やけがで土が入った傷からのもの、そして高齢の方です。
それでも咬傷で破傷風を必ず確認するのは、確率が低い一方で、発症すると命に関わるためです。破傷風菌は土の中にいます。犬や猫は地面をなめたり掘ったりするため、口や爪に土の菌がついていることがあります。咬み傷は深く、酸素が届きにくい環境になるため、破傷風菌にとっては増えやすい条件がそろいます。
破傷風は、感染してから3日から3週間ほどの何も症状がない期間のあとに、口が開けにくい、首筋が張る、体がこわばるといった症状で始まります。予防はワクチンで確実にできますので、噛まれたときは接種歴を確認して、必要なら追加接種を行います。当院では破傷風ワクチンを扱っており、診察のうえその日に接種できます。判断の表は治療の項にまとめました。
海外で噛まれたとき(狂犬病)
日本国内の犬や猫に噛まれて狂犬病になることは、現在まず考えなくて構いません。国内で感染した狂犬病は1957年を最後に発生しておらず、飼い犬には狂犬病予防注射が義務づけられています。国内の咬傷で心配すべきなのは、狂犬病ではなくパスツレラ症やカプノサイトファーガ感染症のほうです。
一方、海外は別です。東南アジア、南アジア、中国、アフリカ、中南米では狂犬病が今も流行しており、犬だけでなく猫、サル、コウモリ、その他の哺乳類からも感染します。旅行先で動物に噛まれた、引っかかれた、傷や粘膜をなめられたという場合は、その場で15分以上、石けんと流水で洗い流し、できるだけ早く現地の医療機関を受診してください。曝露後のワクチン接種は現地で始めることが原則で、発症してからでは治療の方法がありません。
渡航前の予防接種(曝露前接種)は当院のトラベル外来で行っています。長期滞在、動物に接する仕事や活動、医療機関の少ない地域への渡航では、出発前の接種をご検討ください。海外で咬まれた方の狂犬病の曝露後接種は当院で行っています。現地で接種を始めて帰国された方の、続きの接種にも対応しています。曝露後の接種は健康保険の対象です。
人に噛まれた、ハムスターなど小動物に噛まれた
人に噛まれた傷(ヒト咬傷)も、動物咬傷と同じ考え方で扱います。特に注意が必要なのは、けんかで相手の顔を殴ったときに、握りこぶしの関節が相手の歯に当たってできる傷です。手の甲側の関節にできた数ミリの傷で、本人は噛まれたと思っていないことが多いのですが、関節の中に相手の口内細菌が入り込むため、腱鞘炎・関節炎・骨髄炎の合併リスクが高いことがわかっています。小さな傷でも受診してください。
ハムスター、ウサギ、モルモット、フェレット、ハリネズミなどの小動物に噛まれたときも、洗浄と、傷の深さの確認が必要です。まれにハムスターに噛まれたあとアレルギー反応(アナフィラキシー)を起こす方があり、噛まれた直後にじんましん、息苦しさ、めまいが出た場合はただちに119番通報してください。
サル、コウモリ、キツネ、タヌキなどの野生動物に噛まれた場合は、国内であっても傷の処置が必要です。海外であれば狂犬病の対応が最優先になります。
咬傷の読み方とカルテの病名 — 犬咬傷・猫咬傷(「咬傷犬とは」と書かれることもあります)
咬傷は「こうしょう」と読みます。動物咬傷は「どうぶつこうしょう」です。咬傷とは、動物や人に噛まれてできた傷のことをいいます。咬み傷・噛み傷・噛傷・咬創(こうそう)も、ほぼ同じものを指す言い方です。
診断書やカルテには、噛んだ相手に応じて犬咬傷(けんこうしょう)、猫咬傷(びょうこうしょう)と書かれます。犬咬傷とは犬に噛まれてできた傷、猫咬傷とは猫に噛まれてできた傷のことです。犬咬創・猫咬創、犬噛傷・猫噛傷、猫噛み傷といった書き方を見かけることもありますが、指しているものは同じです。噛まれた相手がはっきりしないときや、複数の動物が関わるときは動物咬傷とまとめて記載します。感染を起こしている場合は、これに蜂窩織炎、リンパ管炎、化膿性腱鞘炎といった傷病名が加わります。なお「猫噛症」と書かれることがありますが正式な病名ではなく、猫咬傷やパスツレラ症のことを指しています。
「咬傷犬(こうしょうけん)」という言葉を見かけることがあります。咬傷犬とは、噛まれた側ではなく噛んだ犬のことを指す行政の用語です。人や動物を咬んだ犬のことで、多くの自治体の条例で、飼い主にはその犬を咬傷犬として保健所に届け出て、狂犬病にかかっていないかの検診を受けさせる義務が定められています。噛まれた側としては、飼い主の連絡先と、その犬の登録・狂犬病予防注射の状況を確認しておいてください。届出の期限や手続きは自治体によって異なりますので、詳しくはお住まいの保健所にご確認ください。
受診したら何をしますか
傷の評価から始めます
まず、噛まれた状況をうかがいます。どの動物か、飼い犬・飼い猫か野良か、いつ噛まれたか、どこを噛まれたか、その動物のワクチンの状況、そしてご本人の持病と飲んでいるお薬です。糖尿病や肝臓の病気、脾臓の摘出歴、免疫を抑える薬の使用は、抗菌薬の選び方と経過の見かたを変えます。
次に傷そのものを診ます。深さ、腱や関節、骨に達していないか、歯のかけらや汚れが残っていないか、動かしたときの痛みやしびれがないか。手や指の場合は、腱の動きと関節の可動を必ず確認します。
診察の時点ですでに赤み・腫れ・熱感がある場合は、感染としての治療を始めます。まだ何も症状がない場合は、感染を起こさせないための処置と予防的な抗菌薬という判断になります。
傷の細菌培養検査
膿が出ている、明らかに感染している、抗菌薬を始めたのに改善しないという場合は、傷の分泌物を採って細菌培養同定検査を行います。どの菌が原因かを調べ、必要に応じて薬剤感受性検査(どの抗菌薬が効くか)まで進めます。
結果が出るまでには数日かかります。そのため培養の結果を待ってから治療を始めるのではなく、咬傷でよくみられる菌をカバーする抗菌薬で先に治療を始め、あとから結果を見て必要なら薬を変えます。
傷がきれいで感染の兆候がない段階では、培養検査は行わないことが一般的です。噛まれた直後の傷から菌が検出されても、それが感染を起こすとは限らないためです。
血液検査
発熱がある、赤みが広い範囲に広がっている、全身のだるさが強いといった場合は、白血球数やCRP(炎症の程度をみる数値)を血液で調べます。感染がどれくらい体に及んでいるか、外来で治療を続けてよいか、入院が必要かの判断材料になります。
血液検査の結果は、採血したその日にお伝えすることはできません。結果が出ましたら、あらためてご説明します。ただし、結果を待たずに治療を始めるかどうかの判断は、診察したその場で行います。
持病のある方では、血糖や肝臓・腎臓の値をあわせて確認することがあります。腎機能によって抗菌薬の量を調整する必要があるためです。
傷の中に何か残っていそうなとき
咬傷では、動物の歯が折れて傷の中に残ることがあります。また、噛まれたときに転んだ、金網や柵に手をぶつけたといった状況では、別のものが入り込んでいることもあります。傷の中に硬い感触がある、押すと一点だけ強く痛む、いつまでも治らないという場合は、異物が残っている可能性を考えます。
異物の確認や、骨に達する傷・骨折の疑いがある場合には画像による評価が必要になります。当院で行える範囲を超えると判断したときは、設備のある医療機関にご紹介します。
治療の流れと破傷風の判断
治療は3本柱です
動物咬傷の治療は、傷をよく洗うこと、感染を予防する(または治す)抗菌薬、そして破傷風の予防。この3つで組み立てます。順番も重要度もこのとおりです。
洗浄がいちばん効きます。診察室では、生理食塩水などで傷の中まで十分に洗い流します。汚れや壊れた組織が残っている場合は、その部分を取り除いてから洗います。
この処置は痛みを伴うことがありますので、必要に応じて局所麻酔を使います。処置の方法は傷の状態によって変わりますので、診察のうえでご説明します。
抗菌薬について
抗菌薬は抗生物質・抗生剤とも呼ばれます。咬傷の感染は複数の菌による混合感染です。動物咬傷の抗菌薬の選び方は国内外の感染症治療のガイドラインでほぼ共通しており、パスツレラ属菌にも、ブドウ球菌・連鎖球菌にも、嫌気性菌にも効く薬を選びます。標準はアモキシシリン・クラブラン酸カリウム(オーグメンチン配合錠)で、日本ではアモキシシリン(サワシリン)を足して用量を調整する処方がよく使われます。
まだ感染していない傷に対して感染を防ぐ目的で使う場合は3日から5日、すでに感染している場合は症状に応じて5日から14日ほど続けます。ペニシリンにアレルギーのある方には別の薬を選びますので、必ずお申し出ください。妊娠中・授乳中の方、腎臓の働きが低下している方も、薬の種類と量を調整しますのでお知らせください。
予防的な抗菌薬をすべての咬傷に出すわけではありません。猫咬傷、手や顔の傷、深い傷、糖尿病など感染しやすい条件のある方、皮膚がえぐれて縫合が必要な傷では使いますが、浅い擦り傷程度で条件のあてはまらない場合は、洗浄と経過観察だけで様子をみることもあります。
猫ひっかき病でリンパ節の腫れに治療が必要と判断した場合は、アジスロマイシンなど別の抗菌薬を使います。咬傷の抗菌薬とは選び方が異なります。
破傷風の追加接種が必要かどうか
動物咬傷は、傷が深く汚染された傷として扱います。清潔な浅い切り傷とは基準が違い、追加接種を検討する間隔が短くなります。判断のもとになるのは、これまでに破傷風の予防接種を何回受けたか、そして最後に受けたのがいつかです。
日本では1968年から三種混合ワクチン(ジフテリア・百日せき・破傷風)の定期接種が始まりました。そのため1967年以前にお生まれの方は、破傷風の基礎免疫がない可能性があります。1968年以降にお生まれの方は、乳幼児期に基礎免疫の接種を受けている方がほとんどです。
母子健康手帳が手元になく、接種歴がわからないという方も多くいらっしゃいます。その場合は「接種歴不明」として、安全側で対応します。破傷風トキソイドは、余分に接種したとしても重い問題を起こす薬ではありません。
当院ではワクチン外来で破傷風ワクチンを扱っており、咬傷の診察と同じ日に接種できます。
| これまでの接種 | 最後の接種から | 咬傷での対応 |
|---|---|---|
| 3回以上(基礎免疫あり) | 5年未満 | 追加接種は不要です |
| 3回以上(基礎免疫あり) | 5年以上10年未満 | 咬傷のように汚染された傷では追加接種を1回行います |
| 3回以上(基礎免疫あり) | 10年以上 | 追加接種を1回行います |
| 2回以下、または接種歴不明 | ― | 破傷風トキソイドの接種を開始し、間隔をあけて3回のシリーズを完了します |
| 1967年以前生まれで接種歴がない | ― | 基礎免疫がない可能性が高く、3回のシリーズをご案内します |
傷が深く汚れがひどい、受傷から時間が経っている、基礎免疫がない、といった条件が重なる場合は、ワクチンに加えて抗破傷風ヒト免疫グロブリンの投与が検討されます。当院で対応できない場合は、実施できる医療機関にご紹介します。
咬み傷は原則として縫い合わせません
傷を見て「縫ってもらったほうがきれいに治るのでは」と思われるかもしれませんが、動物咬傷では事情が違います。傷の中に細菌が入り込んでいる状態で皮膚を閉じてしまうと、菌を密閉することになり、深部の感染や膿瘍を招きます。そのため咬傷は、原則として傷を開いたまま治す(開放創として管理する)方法をとります。
例外は顔です。顔の傷は見た目への影響が大きく、血流が豊富で感染しにくいため、十分に洗浄したうえで早期に閉じることが検討されます。この判断は傷の状態と時間によりますので、顔を噛まれた場合は当日中に受診してください。
手や指で腱・関節に達している傷、皮膚が大きく欠損している傷、深部の洗浄が必要な傷は、外来での処置では対応しきれません。その場合は初期対応のうえで、手の外科や形成外科のある医療機関にご紹介します。
受診後の見かた。48時間から72時間が目安
治療を始めたあと、ご自宅で見ていただきたいのは、赤み・腫れ・痛みの3つがどう変わるかです。抗菌薬が効いていれば、多くは48時間から72時間で痛みが軽くなり、赤みの広がりが止まります。境目にペンで印をつけておくと、広がったかどうかが判断しやすくなります。
傷は毎日洗って構いません。シャワーで石けんを使って洗い、清潔なガーゼで覆ってください。入浴で湯船につかるのは、傷が閉じるまでは控えてください。
手を噛まれた場合は、腫れているあいだ手を心臓より高く上げて過ごしてください。指は動かせる範囲で軽く動かすほうがよいこともあれば、安静が必要なこともあります。どちらかは診察でお伝えします。
お薬の副作用と、もう一度受診していただきたい症状
アモキシシリン・クラブラン酸では、下痢や軟便がよくみられます。多くは飲み終われば落ち着きますが、水のような下痢が続く、便に血が混じる場合はご連絡ください。発疹、じんましん、息苦しさが出た場合はアレルギー反応の可能性がありますので、内服を中止して受診してください。過去にペニシリン系で発疹が出たことのある方は、処方の前に必ずお伝えください。
破傷風トキソイドでは、接種した部位の赤み・腫れ・痛みが数日みられることがあります。まれに発熱やだるさが出ることがあります。接種当日の激しい運動は避けてください。
治療を始めたあとでも、次の症状があるときは、次回予約を待たずに受診してください。全身の症状があるときは救急要請です。
費用の目安
健康保険3割負担の場合の目安です。実際の金額は傷の大きさ、処置の内容、検査の有無で変わります。
2026年8月時点の診療報酬・薬価にもとづく目安です。初診料、再診料、処方箋料、創傷処置(100平方センチメートル未満)。細菌培養同定検査(その他の部位)に微生物学的検査判断料を加えた。細菌薬剤感受性検査(1菌種)。血液検査は血液採取(静脈)、末梢血液一般検査、CRPに血液学的検査判断料と生化学的検査(1)判断料を加えた。破傷風トキソイドは沈降破傷風トキソイド0.5mLの薬価1,173円を薬剤料として、皮内・皮下及び筋肉内注射と生物学的製剤注射加算を加えた。抗菌薬はオーグメンチン配合錠250RS(薬価45円70銭)3錠とサワシリン錠250(薬価15円30銭)3錠を1日量として5日分で、アジスロマイシン錠250mg(薬価56円30銭)2錠を3日分で。いずれも3割負担分を10円単位に丸めています。院外処方のお薬は調剤薬局でのお支払いとなり、調剤料などが別に加わります。渡航や予防を目的とした破傷風ワクチンの接種は自由診療で、料金はワクチンのページをご覧ください。
よくある質問
猫に噛まれました。腫れてきたのですが病院に行くべきですか?+
犬に噛まれました。何科を受診すればよいですか?+
噛まれてから何時間以内に病院へ行けばよいですか?+
猫に噛まれた腫れは、どれくらいで治りますか?+
猫に噛まれた腫れが引きません。どうすればよいですか?+
猫に噛まれても自然治癒しますか。放置していても大丈夫ですか?+
傷が小さくて腫れてもいません。それでも受診が必要ですか?+
犬に噛まれて破傷風になる確率はどれくらいですか?+
破傷風の予防接種は必要ですか。最後にいつ打ったかわかりません。+
飼い犬・飼い猫です。ワクチンも打っています。それでも受診が必要ですか?+
キズパワーパッドを貼ってもよいですか。市販薬で治せますか?+
猫に噛まれて指が曲がりません。ようすを見てよいですか?+
犬に噛まれたあとに頭痛と発熱があります。関係がありますか?+
猫に引っかかれました。噛まれたときと同じ対応でよいですか?+
海外で犬に噛まれました。狂犬病は大丈夫でしょうか?+
子供が犬に噛まれました。何に気をつければよいですか?+
傷あとやしこりは残りますか?+
咬傷は何と読みますか。診断書にはどう書かれますか?+
「咬傷犬」とはどういう意味ですか?+
ハムスターやウサギに噛まれた場合はどうすればよいですか?+
人に噛まれた場合も同じですか?+
動物咬傷は、噛まれた直後に何ともなくても、あとから急に腫れてくることのある傷です。とくに猫に噛まれた傷と、手や指の傷は、見た目の小ささで判断できません。当院では傷の洗浄と処置、抗菌薬、破傷風ワクチンの接種までを同じ診察の中で行います。内科・皮膚科・アレルギー科併設、豊洲駅から徒歩3分、土日も診療しています。海外での咬傷や渡航前の予防接種は、トラベル外来でご相談ください。
本ページは一般的な情報提供を目的としています。傷の処置、抗菌薬の選択、破傷風の追加接種の要否は、傷の状態・受傷からの時間・年齢・持病・接種歴をふまえて診察のうえで決めます。記載は2026年8月時点の情報です。
