インスリン
インスリン療法とは
糖尿病のない人は常に血液中に少量のインスリンが分泌(基礎分泌)され、さらに食後に血糖値が上昇すると大量のインスリンを分泌(追加分泌)することで血液中のブドウ糖の量が一定に保たれています。
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基礎分泌 |
追加分泌 |
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常に血液中に少量分泌されるインスリンです |
食事をとったりジュースを飲んだ時に血糖が上昇するタイミングで分泌されるインスリンです。 |
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基礎分泌を補うインスリンが作用時間の長い『基礎インスリン』です |
追加分泌を補うインスリンが『追加インスリン』です。 |
患者さんの病状や生活のパターンに合わせてひとりひとり応じたインスリン注射スケジュールとなるように配慮して治療を行います。
インスリン療法の対象は?
1型糖尿病ではインスリンが不足しているため血糖調整を行うことができないため、自己注射をすることでインスリンを補うことで血糖管理を行います。
2型糖尿病でも、1型糖尿病が疑われたり血糖管理が経口血糖降下薬だけでは上手くいかない場合や妊婦などに用いられます。
インスリン製剤の種類
インスリンは効果の時間により分類されます。
追加インスリン(ボーラス)
食後の血糖値を安定化させるための追加分泌を補うインスリンが『追加インスリン』です。
食事直前に注射をする作用が速い超速効型インスリンを使用することが多いですが、病状や併存する疾患、生活スタイルによって超速効型インスリンよりも更に効果がはやい超速効型インスリンが使用できるようになっています。
超速効型インスリン製剤
食事直前に投与することで食後の高血糖を抑えます。
注射してから効果がでるまで10〜20分と早いために食事の直前に注射することが可能です。効果持続時間は3〜5時間程度と短いため低血糖リスクを減らすことが出来ます。
ファスブやルムジェブは従来の超速効型インスリンよりも効果発現が早いため食事のタイミングに合わせてインスリンを注射し、血糖値をコントロールしたい方、従来の超速効型インスリン製剤では十分な血糖コントロールが得られないかたなどにはおすすめです。
速効型インスリン製剤
食事の約30分前に投与することで食後の高血糖を抑えます。インスリンの作用が持続する時間は5~8時間です。
基礎インスリン(ベーサル)
食事に関係なく分泌されている基礎分泌を補うインスリンです。
週1回持効型溶解インスリンアナログ注射液
持効型溶解インスリン製剤
基礎分泌を補うことを目的につくられたインスリンです。空腹時血糖の上昇を抑制して、1日中の血糖値を全体的に下げる働きがあります。
注射してから効果が出るまでの時間は1~2時間で、インスリンの作用が持続する時間はほぼ1日にわたります。
中間型インスリン
基礎分泌を補うことを目的につくられたインスリンです。空腹時血糖の上昇を抑制して、1日中の血糖値を全体的に下げる働きがあります。
注射してから効果が出るまでの時間は1~3時間で、インスリンの作用が持続する時間は18~24時間です。
混合型インスリン
超速効型や速効型インスリンと中間型インスリンを、いろいろな割合であらかじめ混合したインスリン製剤です。昼食前や夜間の低血糖が起こりやすい場合があります。
配合溶解インスリン製剤
ノボラピッド30%、トレシーバ70%などが混ざっている製剤です。
持効型溶解インスリン・GLP-1受容体作動薬配合製剤
インスリンの具体的な投与方法
❶ BOT(Basal Supported Oral Therapy)
飲み薬だけでは血糖値のコントロールが不十分な方に、インスリン療法を始めやすい方法として、現在の服用している経口糖尿病降下薬を使用しながら1日1回基礎インスリンを使って血糖値を下げる方法です。
空腹時血糖目標値に合わせて投与量を徐々に増やします。全体の血糖が低下し、空腹時の高血糖を改善することで本来の膵臓の機能が回復してくると食後の血糖値の改善に繋がります。
❷ Basal plus
基礎インスリンに加えて、もっとも摂取量が多い食事のタイミングで 1日1回超速効型インスリンなどの追加インスリンを注射します。
❸ 強化インスリン療法(Basal-Bolus療法)
1日3回食事の前に追加インスリンを打つ方法です。人のインスリン分泌に近い分泌パターンを実現できるため、より良い血糖管理が可能です。
インスリンの調整はどのようにするの?
責任インスリンによる投与量調節
注入したインスリンの量が、その後の血糖値に大きく影響しています。このインスリンのことを「責任インスリン」と言います。
測定した血糖値から、責任インスリンの量を振り返って適切であったかどうかを判断します。
早めのインスリンが大事
糖尿病と診断された時点で、既にインスリン分泌は糖尿病がない人の約半分に低下しています。
インスリンを体外から補充することによって、無理にインスリンを出そうとするすい臓の働きすぎを防ぎ、疲れたすい臓を一時的に休めることができます。インスリン治療によってすい臓の働きが回復したら、インスリン注射の回数を減らせたり、経口血糖降下薬だけの治療に戻せる可能性もあります。
よくある質問
インスリン注射は血糖値いくつから必要ですか?
表2インスリン療法の適応
1.絶対的適応
①インスリン依存状態
②高血糖性の昏睡(糖尿病性ケトアシドーシス,高浸透圧高血糖状態)
③重症の肝障害、腎障害を合併しているとき
④重症感染症,外傷、中等度以上の外科手術(全身麻酔施行例など)のとき
⑤糖尿病合併妊娠 (妊娠糖尿病で,食事療法だけでは良好な血糖コントロールが得られない場合も含む)
⑥静脈栄養時の血糖コントロール
2.相対的適応
①インスリン非依存状態の例でも、著明な高血糖(たとえば、空腹時血糖値 250mg/dL以上。随時血糖 350mg/dL以上)を認める場合
②経口薬療法のみでは良好な血糖コントロールが得られない場合
③やせ型で栄養状態が低下している場合
④ステロイド治療時に高血糖を認める場合
⑤糖毒性を積極的に解除する場合
【日本糖尿病学会(編・著):糖尿病治療ガイド 2022-2023,文光堂,p.70-71, 2022°より引用]
インスリンは一生打たなくてはいけないのですか?
1型糖尿病は、膵臓のインスリン産生細胞(β細胞)が自己免疫という機序によって破壊され、インスリンの産生が完全に停止または、ほとんど産生されなくなるので、体は絶対的なインスリン不足に陥ってしまうのです。インスリン療法は1型糖尿病の方にとっては、最善の治療を続けて行くことなのです。よって、1型糖尿病にはインスリン治療は一生必要になります。
2型糖尿病や妊娠糖尿病、その他の理由でインスリンが必要になっている場合は、インスリンの産生が完全に停止している状態ではなく、相対的に不足している状態と考えられますので、状況に応じて、たとえば血糖値が正常近くに保持できるようになると、インスリン治療が不要になることがあります。
インスリンを打ち忘れたらどうすれば良いですか?
打ち忘れに気づいた時に大事なことは、 勝手に完全に中止しないことと、2回分を一度に注射しないことです。一時的な高血糖よりも、低血糖を避けることが大切です。 打ち忘れた時の対処方法は、使用している注射薬、注射予定からの経過時間、併用している薬、患者さんの病状によって大きく異なるため、必ず主治医にどうすればよいか予め相談しておきましょう。
インスリン1単位でどれくらい血糖値が下がりますか?
インスリン効果値(インスリン1単位で血糖値がどれだけ下がるのか)については、下記の1700ルールを用いると大体の計算が出来ます。ただ、あくまでも個人差がありますので、実際インスリン注射後に自分で血糖値を測定してより精度を高めていく必要性があります。
1単位で補正できる血糖=1700÷(1日の総インスリン)
例:朝6、昼6、夕6、就寝前12単位であれば
1700÷30≒56.7
よって、1単位でおおよそ50mg/dL下がると考えます。
CIR(Carbohydrate-to Insulin ration 追加インスリン1単位で処理できる糖質量)
下記の500ルールを用いると、インスリン効果値と同様に近似値を求めることができます。
インスリン1単位で処理できる糖質量=500÷(1日の総インスリン)
例:朝12、昼12、夕12、就寝前14単位であれば
500÷50=10g/単位 となります。
要するに糖質40gを含むおにぎりを食べた時には、4単位程度の超速効型インスリンをうてば良い事となります。
一度はじめたら、もう一生やめられない?
1型は原則継続が必要です。。2型では膵機能・生活改善・併用薬しだいで減量や中止が可能なケースもあります。

